NY3日目|大橋一輝


NY3日目

朝、7時前に起きる。

コーヒーを作って飲んで、メールを確認。レスポンスをして、ヨーグルトを食べる。

朝は手紙を書く。

書く前に、外に出てコーヒーとヨーグルトで舌を慣らした身体にニコチンを入れる。

早朝のNY。今日は晴れだ。

いい空と風だ。身体に良くない煙がうまい。

部屋に戻る。手紙を書く前に、じっと何かに耳をすます。

手紙というのは幼女Xで僕が演じる役がラストシーン前に書く手書きの手紙のことだ。

幼女Xが上演されるたびに、日本でも、海外でも、これを初日の朝に書くことを習慣としている。

この手紙を書く、というのは大事な作業だと思っている。もちろん使い回しはできるが、そうしない。初めの再演TPAM横浜でも、クアラルンプールでも、バンコクでも、日本再演ツアーでも、杭州でも更新するために書いてきた。なんだか、これは大切なことだと思うのだ。加えて、再演からは英語表記の手紙も書いている。中国では中国語も書いた。

今回も書く。今回は日本語と英語。

英語は日々勉強中だ。ほんのほんの少しだけ、また英語が身体に馴染んでいる。まだまだ英語の旅は果てしない。

ホテルの部屋で書く、書く、書く。この時間が芝居になる。

手紙が僕は好きだ。

書き終わる、やはりエネルギーがいる作業だ。

その後、撮影。

手紙はプロジェクションで表れる。その土地土地の風景と共に、手紙は投影される。今回は、NYの街だ。

撮影に協力してくれるのは、近年範宙に関わってくれている藤江ちゃんだ。

僕とすぐるにとっては大学の後輩、彼女が、今回はスタッフとして同行してくれている。二人でタバコを吸いながら、NYの街を歩き、撮影場所を探す。

風が強い日だ。

紙に書いた手紙をよき場所に置いてその場所の風景と共に撮影しなければならない。

やんちゃな風と、駆け引きをする。

なんとかいい場所を見つけて撮影を進める。

今日の風は昨日までより寒い。

二人で寒い寒い言いながら、辛抱強く風が止むのを待って、一瞬を切り抜く。思ったより時間がかかるが無事終了。寒い。

ホテルに戻って、温かいコーヒーを作って飲み、身軽になってまた街に降り立つ。

12時位になってしまった。

当初の作戦を変更し、あの場所へ向かう。

劇場入りは16時、それだったら、今日はあそこしかない。

Grand Central のクラシックな駅から昨日と同じ6番の電車へ。昨日と同じ、その場所の最寄り駅へ。

とりあえず腹ごしらえ、サラダとパンと肉でお腹を満たす。肉が美味い。

食堂のテレビにはトランプ大統領。

そこへ着く。ワールドトレードセンター、ミュージアムへ。24ドルのチケットを買って、入場。

手荷物検査、当然か。

ミュージアムの中に入る。

あの時の記憶や映像や印象が、詳細な情報によって立体的になっていく。

それは押したり引いたりする波のように優しく時に少し荒々しくやってくる。

徐々に顔がきゅっとしまってくる。

地下にミュージアムはのびている。

限られた時間の中で、 じっくり見る。

きてよかった。

ここはアメリカの人だけではなく、どの国の人が訪れても共有できるものがある。

あの日犠牲になったのは、あらゆる国の方達だ。日本人の方もいる。

世界の色んな国のビジネスマンが、あの日このタワーで働いていた。

犠牲者の方達の写真が壁いっぱいに貼られている。

誰一人、あの日あんなことが起こるなんて思ってもいなかっただろう。

写真の中の人々は笑っていたり、ビシッと敬礼していたりしている。彼らが生きていたというエネルギーが伝わってくる。

突然にそれは失われてしまった。

その心や、その抱いていた気持ちや、それぞれの内と外で進行中だったすべてものたちはどうなってしまったんだろう。

たくさん、見た。聞いた。

かつて支えていた柱、活躍していたアンテナ、残った壁、顔写真のついたMissngのビラ、そして遺留日の数々。

ミュージアム内の小さなシネマでは、すべての方のプロフィールやどんな人だったのか、エピソードや、関係者がその方について語っている肉声が流れている。

もう一つのシネマでは、今のように復旧したドキュメンタリー映像11分。

膨大な時間と労力、人々の尽力があった。

ここを訪れた、様々な国の方達のメッセージが書くことができる機械がある。

すごい技術力だ。上手く表現できないが、世界地図があって、自分の国を指定して、メッセージをペンで画面に直接書いて、登録する。

世界地図は携帯の画面のように、指でスクロールできたり拡大したり縮小したりできる。

だれもその機械を使ってない時は、その地図状にランダムに様々な人たちが書いたデータがランダムにちょっとづつ浮かんでは消える。拡大すると、たくさん出てくる。とんでもないデータ量だ。

日本ではこんな機械見たことがなかった。

でもでも僕が知らないだけかもしれない。

他にも、何でもない柱や壁に高密度で繊細な映像が消えたり現れたり展開されているのを見て驚く。どうなっているのだ。テクノロジー。

様々な国の、様々な言語での、様々な言葉。

きっとここはすべての人類にとって、◯◯な場所になる可能性と物語が生まれた生まれる場所。

外に出る。風が強い。

空を見上げる。

昨日とは違う真っ青な空だ。

雲がすごく早く流れている。

今日は飛行機は、飛んでいない。

アメリカ国旗が音を立てて懸命に泳いでいる。風が弱くなると旗は力をなくしたようにしおれる。今は、旗が違って見える。

劇場に向かう。

初日の舞台に向かう。地下鉄に乗り込む。

紙幣を入れる、チケットが出てくる。

紙幣の入れる正しい向きがあったことを学んでいた。

荷物をピックアップして、劇場へ。

ミュージアムのことが時々頭に入っては消えていく。

劇場入り。

範宙の舞台写真をずっと撮ってくれているカメラマンのYukitaka Amemiyaと一年振りに再会。

彼はロンドンから来てくれた。活動の拠点をロンドンに移したのだ。こうやってNYで会えるなんて素敵だ。自然に握手してハグする。

最終稽古。

映像と演技、照明のバランスを細かく調整し、詰めていく。

すぐるが特にさちろーちゃんの出演シーンをテクニカル含めて細かくディレクションしていく。修正、反応をしていくさちろーちゃん。

ゆきたかくんは、その様子を撮ってくれている。素敵だ。

本番前。おのおの準備に入る。

タバコを吸いに外に出る。夕暮れのNYの町。

また違った表情をしている。

先にいかなければ、と思った。

いかなければ、なんだなと思った。

NY初日、たくさんのお客さんが来て下さった。その後、レセプション。お客様や関係者、スタッフさん、色んな方たちを交えて初日乾杯。

たくさんの方たちが話しかけてくれた。このような場所がある。素敵だ。明日や未来への励みになる。

でもやはり英語でのコミュニケーションが歯がゆい。言葉の語彙とか技術ではなく、どんな心でいればいいんだろう。探そう。

とにもかくにも無事初日が空きました。

関係者の皆様、スタッフさん、お客様、本当にありがとうございました。

次の日記は、もう少し演劇のことなどを書こうと思います。

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Theatre Collective HANCHU-YUEI

 2007年より、東京を拠点に海外での公演も行う演劇集団。すべての脚本と演出を山本卓卓が手がける。

 現実と物語の境界をみつめ、その行き来によりそれらの所在位置を問い直す。

生と死、感覚と言葉、集団社会、家族、など物語のクリエイションはその都度興味を持った対象からスタートし、

より遠くを目指し普遍的な「問い」へアクセスしてゆく。

 近年は舞台上に投写した文字・写真・色・光・影などの要素と俳優を組み合わせた独自の演出と、観客の倫理観を揺さぶる強度ある脚本で、日本国内のみならずアジア諸国からも注目を集め、マレーシア、タイ、インド、中国、シンガポール、ニューヨークで公演や共同制作も行う。

 『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 最優秀脚本賞と最優秀作品賞を受賞。

090-6182-1813(制作)

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