
範宙遊泳「われらの血がしょうたい」
稽古場レポート(のようなもの)
文・こんにち博士(南極)
(前書き)
こんにち博士です。
南極という劇団で劇作家をしています。
範宙遊泳の新作公演「われらの血がしょうたい」は2月21日からシアタートラムにて開幕します。みなさんそちらに向けた稽古の真っ只中というところにお邪魔しまして、今回稽古場レポートを書くことになりました。
今作は10年前に上演された同作をリクリエーションするもので、作・映像を山本卓卓さんが、演出をヌトミックの額田大志さんが担当されています。キャストは範宙遊泳の劇団員である井神沙恵さん、植田崇幸さん、埜本幸良さん、福原冠さん、そして客演として南極の端栞里、となんだかアツい感じです。
このレポートのことを誘ってくださったのは範宙遊泳プロデューサーの坂本ももさんなのですが、範宙遊泳・ヌトミック・南極が混じっている今作において3つの劇団の交点をきちんとつくっておきたいとを交じり合わせたいとおっしゃっていて、このレポートはそういう意味合いもあります。僕にとっても、自分の劇団以外の稽古場を見学できることはそうそう無いので、そんな目線も交えつつ、作品と稽古のことについて、レポート(のようなことを)できたらと思います。

端栞里の映像収録を見守るみなさん
(本文)
稽古場はとにかく急な上り坂の先にあります。僕はこの稽古場に以前一度だけ行ったことがあったんですが、そのときに坂道、というか崖みたいなところに階段が取り付けられた道をぜーぜー言いながら登った記憶があり、今日はそこを通らないように行こうと決めてました。その稽古場には最寄駅が2つあり、違う方を選べばその坂道には当たらないのです。駅に降り立った時点でそんな気はしていたのですが、どこで間違ったのか今日もその坂道にぶち遭遇してしまい、やや息を切らしながら稽古場に到着。
稽古はまず「チェックイン」というものからスタート。僕も輪の中に入れてくれました。この「チェックイン」では毎日一つお題を決めて、それに関してひとりずつ回答を言っていきます。今日のお題は「自分が演劇をやってなかったとしたら何の仕事をしていたか」というものです。僕はこういったパラレルワールド的なことが好きなので、ラッキーなお題やなと思いました。
植田さんはもしいまの人生じゃなかったら船乗りをしていたそうです。でも泳ぎは苦手でカナヅチらしいです。井神さんは漫画家で、端栞里はアイドルで、山本さんはお土産問屋をしていたかも、と言っていて、いま目の前にいる人の、いま目の前にはいない姿を思い浮かべるのは、なんやロマンチックな気がしてきます。今日のチェックインでこのお題を出したのは福原さんだったのですが、福原さん本人は“ジャスティン・ティンバーレイク!!”と言っていて、なんかずるいんちゃいますー、と正直ちょっと思いましたが、福原さん自身はすごくニコニコしていました。
そんな福原さんによる身体のワークショップが始まりました。自分の身体の、肌や、肉や、骨を、触れたり動かしたりすることによって、それらがそこにあることを改めて認識していくようなトレーニングです。僕は(船乗りの)植田さんとペアを組みつつワークショップに挑んだのですが、植田さんは自分の身体のパーツを自在にバラバラにできるような感じがしてすごかったです。(『スーサイドスクワッド』に両腕を取り外せる超人が出てくるのですがそんなイメージです)

パラレルワールドのこんにち博士
そしていよいよ演劇シーンの稽古がはじまりました。
稽古場に、演出家と劇作家がそれぞれいるという状況は自分にとっては貴重なもので、どんな風に稽古が進んでいくのか、興味がありました。
稽古は基本的に額田さんの主導で進んでいきます。額田さんの演出は、俳優の演技を指導していく、というよりは、額田さんが提示する問いかけに対して、俳優がお芝居で答えていく、というようなニュアンスを感じました。聞いてみたところ「演出する上で、脚本を最上位に置いています」と額田さんは言っていて、脚本の中で問いを見つけて、その問いへの答えかもしれないものを試して試して試して、だんだんと演劇を立ち上げていく稽古です。この日の稽古では、山本さんが映像を作りつつ2台のプロジェクターを使って実際に投影していて、そういうところからも、まさに演劇が立ち上がっていっている印象を受けました。
南極の稽古は、そのほとんどが脚本にあるものを舞台上に具現化することに充てられるので、範宙遊泳と額田さんの稽古は新鮮でした。額田さんは気になるところが出てくると一度シーンを中断し、演出席から舞台上へと歩いていきます。すると俳優のみなさんが額田さんの周りにそろそろと集まっていき、小さい声で話し合いを始めます(額田さんの声が特に小さい!)。稽古場はほぼシアタートラムの実寸(実際の舞台上のサイズ)が取れるほど広い空間なのですが、小さい輪で話すので稽古場はしんと静まり返ります。ひそひそ話す様子は演劇をつくっている人たちには見えず、化学実験チームや、森の音楽隊のようです。あとちょっと野球の作戦会議っぽさもありました。山本さんはというと、少し離れた場所から見守っています。今回のリクリエーションでは、作品がより伝わりやすいようにテーマやモチーフをクリアに・解像度を上げていきたいという思いと、新演出・新キャストで生まれる偶発性を期待して楽しんでいる、その両方があるようでした。

額田さんの音楽的演出スタイル
この日の稽古では、試行錯誤を繰り返しながらシーンをつくっていく中で、額田さんが脚本に関する新発見をして、稽古場がざわつきました。それは作品に大きく関わることなので具体的には伏せますが、僕も見学しながらオオーとなりました。山本さんをふと見ると、にんまりとした笑みを浮かべていて、それも印象的でした。
「われらの血がしょうたい」は人間の根源的な営みを表現する作品とのことです。この稽古場も、身体を分解し、言葉を分解し、組み立ててはまた分解し、目をこらして解像度を上げてみたり、かと思ったら急に稽古場が広く感じられたりして、稽古場にはたしかに人間の血が通っていました。
(終)

山本さんが発明したリモコン式プロジェクターシャッター(㊙️かも)

こんにち博士(こんにち・はかせ)
劇作家。1996年大阪生まれ、東京在住。10人組のゆかいな劇団・南極で脚本と演出を担当している。Aマッソ加納の単独公演「H15」や、宿泊型イマーシブシアター「泊まれる演劇」の作・演出など、南極内外を問わず多方面で活動している。2026年には初監督長編映画「チャオ・ヤングの墓」が公開予定。
UPLINK吉祥寺にてプレミア上映予定
2/15(日)18:40~
2/24(火)20:30~
✴️端栞里も出演しています!
南極第9回本公演「ホネホネ山の大動物」
5月14日(木)〜17日(日) @吉祥寺シアターにて上演
✴️範宙遊泳「われらの血がしょうたい」にてティザーフライヤーが挟み込まれています!